手の後遺障害
上肢の構造
腕は医学的には「上肢」(じょうし)といいます。
上肢は、肩から肘にかけての「上腕」と、肘から手にかけての「前腕」の二つに分かれ、それぞれの境目に靱帯で連結された関節があります。
上腕には上腕骨という1本の長管骨があり、前腕には前腕骨(橈骨・尺骨)という2本の長管骨があります。肘関節はこの3つの長管骨(上腕骨、橈骨、尺骨)によって構成されています。
自賠法施行令で定められた後遺障害等級表の中で、「上肢の3大関節」という言葉が用いられていますが、これは「肩関節」「肘関節」「手関節」の3つを指しています。
主な受傷態様と自覚症状
<骨折>
・痛み
・腫れ
・腕が上げられない、腕が伸ばせない 等
上腕や肘の骨折は腕を伸ばしたまま受傷した場合におきます。
多くはX線で見ることができますが、関節回りの液体の状態からしか分からないケースもあります。
<脱臼>
・痛み
・腫れ
肘関節が完全に外れてしまう脱臼、瞬間的に外れて元に戻る亜脱臼があります。
事故の衝撃により、肘を強打した場合や、腕が強く引っ張られたことにより起きます。
軽く見られがちな脱臼ですが、処置を誤ると、関節の周囲の血管や神経を傷つけることがあります。
<靱帯損傷>
・痛み
・腫れ
・皮下出血
・関節がぐらつく 等
靱帯が損傷を受けることを靱帯損傷といい、捻挫もこれに含まれます。交通事故の場合、多くは手を付いたり、ひねったりする事により起きます。
<腕神経叢損傷(わんしんけいそうそんしょう)>
・運動麻痺
・知覚麻痺 等、
脊髄から腕へと伸びている神経の束(腕神経叢)が損傷される事によって生じます。バイクの転倒事故によることが非常に多いです。
多くは牽引損傷(腕が強く引っ張られること)によって起きますが、骨折の骨片が神経叢を直接損傷したことにより起きることもあります。事故直後から上肢の運動麻痺や知覚麻痺がみられます。
上肢の後遺障害等級認定基準
上肢の後遺障害には「神経症状を残すもの」、「欠損又は機能障害」、「変形傷害」、「醜状障害」があり、それぞれ程度に応じて認定されます。
<神経症状を残すもの>
第14級9号 局部に神経症状を残すもの
第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
<欠損又は機能障害>
第12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
第10級10号 1上肢の3大関節中の1関節に著しい障害を残すもの
第8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
第6級6号 上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
第5級4号 上肢を手関節以上で失ったもの
第5級6号 1上肢の用を全廃したもの
第4級4号 1上肢をひじ関節以上で失ったもの
第2級3号 両上肢を手関節以上で失ったもの
第1級3号 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
第1級4号 両上肢の用を全廃したもの
<変形障害>
第12級8号 長管骨に変形を残すもの
第8級8号 1上肢に偽関節を残すもの
第7級9号 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
判断の分かれ道
<神経症状を残すもの>
12級と14級の違いは、自覚症状について「医学的な証明」ができているかということです。事故態様等から見て、そのような痛みが生じることが充分にありうると説明できれば、14級が認められますが、12級が認められるためには他覚的所見によってその痛みの原因は事故であると証明できなければなりません。そのためにはレントゲンやMRI検査、各種生理学的検査の結果が重要になります。
<欠損又は機能障害>
機能障害の等級は、どこの関節がどの程度制限されているかによって判断されます。
肘関節における可動域は屈曲と伸展です。制限の有無については、健側(事故の影響による症状がない側)の可動域と比較することによって判断していくことになります。
比較の結果と認定は以下のようになります。
3/4以下に制限 機能に障害を残している
1/2以下に制限 機能に著しい障害を残している
全く可動しない又は10%以下しか動かない 用を廃している
このように、医師による検査の結果で等級がはっきり分かれるため、きちんと診断をしてもらう必要があります。
また、可動域に制限が出ていても、交通事故によって生じた器質的損傷を原因とすることが医学的に証明されなければなりません。そのためには、レントゲンやMRI画像を準備し、既往症と診断されないように後遺障害診断書の作成にも注意を払うことが大切です。
<変形障害>
変形障害は偽関節の有無と骨の変形や欠損の有無により判断されます。
偽関節とは、骨折の後、骨がくっつかずに回復が止まってしまったものをいいます。
つまり、骨がくっつかずに止まってしまったか(偽関節)、骨はくっついたけれど変形が残っているか(変形や欠損)という点で差が生じます。
手首の後遺障害
手首の構造
手首の関節(手関節)は2つの前腕骨の内、親指側に位置している橈骨と、手首の付け根にある8つの手根骨(大菱型骨、小菱形骨、舟状骨、有頭骨、有鉤骨、月状骨、三角骨、豆状骨)で構成されています。
自賠法施行令で定められた後遺障害等級表の中で、「上肢の3大関節」という言葉が用いられていますが、これは「肩関節」「肘関節」「手関節」の3つを指しています。
主な受傷態様と自覚症状
<骨折>
・痛み
・腫れ
・動かない、曲げられない 等
転倒した際等、手をついたりひねったりする事によって受傷します。
<脱臼>
・痛み
・腫れ
関節が完全に外れてしまう脱臼と、瞬間的に外れて元に戻る亜脱臼があります。
事故の衝撃により、手を強打した場合や、強く引っ張られたことにより起きます。
軽く見られがちな脱臼ですが、処置を誤ると、関節の周囲の血管や神経を傷つけることがあります。
<靱帯損傷>
・痛み
・腫れ
・皮下出血
・関節がぐらつく 等
靱帯が損傷を受けることを靱帯損傷といい、捻挫もこれに含まれます。交通事故の場合、多くは手を付いたり、ひねったりする事により起きます。
<TFCC損傷>
バイクで転倒して手をついた時等は、TFCC損傷の可能性があります。TFCCは手関節の小指側にあり、手首を安定させたり、衝撃を和らげるクッションのような役割を果たしています。TFCC損傷は初診では手首の捻挫と診断される事が多いです。慢性的な痛みがいつまでも持続する場合、手首をひねる運動やドアノブを回すような動作が困難な方は、一度専門の検査を受けることをお勧めします。
手首の後遺障害等級認定基準
自賠責保険の後遺障害等級認定では以下の基準が設けられています。
第12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
第10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
第6級6号 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
第5級4号 1上肢を手関節以上で失ったもの
第2級3号 両上肢を手関節以上で失ったもの
判断の分かれ道
機能障害の等級は、どこの関節がどの程度制限されているかによって判断されます。
制限の有無については、健側(事故の影響による症状がない側)の可動域と比較することによって判断していくことになります。
手関節の主要運動(日常動作において最も重要なもの)は背屈と掌屈です。
健常な人間の手の正常可動域は、背屈70度、掌屈90度程です。
これを認定基準に当てはめてみると以下の通りになります。
なお、可動域の測定は5度刻みで行います。端数が生じた場合は、5の倍数に切り上げます。
|
|
背屈 |
掌屈 |
合計値 |
---|---|---|---|---|
機能に障害を残している |
3/4以下に制限 |
55° |
70° |
125° |
機能に著しい障害を残している |
1/2以下に制限 |
35° |
45° |
80° |
用を廃している |
全く稼働しない又は10%以下しか動かない |
10° |
10° |
20° |
このように、医師による検査の結果で等級がはっきり分かれるため、きちんと診断をしてもらう必要があります。
また、可動域に制限が出ていても、交通事故によって生じた器質的損傷を原因とすることが医学的に証明されなければなりません。そのためには、レントゲンやMRI画像を準備し、既往症と診断されないように後遺障害診断書の作成にも注意を払うことが大切です。
指の後遺障害
指の構造
指は中手骨という5つの骨と、その先についている14個の指骨で構成されています。
中手骨は掌の部分にあります。指骨はそれぞれ、指先の爪の部分を末節骨、その次の第一関節と第二関節の間を中節骨、指の根本の骨を基節骨といいます。
関節は、末節骨と中節骨の間の関節を遠位指節間関節(DIP関節)、中節骨と基節骨の間の関節を近位指節間関節(PIP関節)、基節骨と中手骨の間の関節を中手指節関節(MP関節)、とそれぞれ呼びます。
親指(母指)は、末節骨と基節骨で構成されていて、その間の関節を指節間関節(IP関節)といいます。
指の後遺障害等級認定基準
指の後遺障害には「欠損傷害」と「機能障害」があります。それぞれ程度に応じて認定されます。
自賠責保険の後遺障害等級認定では以下の基準が設けられています。
<欠損傷害>
第14級6号 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
第13級7号 1手の親指の指骨の一部を失ったもの
第12級9号 1手の小指を失ったもの
第11級8号 1手の人差し指、中指又は薬指を失ったもの
第9級12号 1手の親指又は親指以外の手の手指を失ったもの
第8級3号 1手の親指を含み2の手指を失ったもの又は親指以外の3の手指を失ったもの
第7級6号 1手の親指を含み3の手指を失ったもの又は親指以外の4の手指を失ったもの
第6級8号 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの
第3級5号 両手の手指を全部失ったもの
<機能障害>
第14級7号 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
第13級6号 1手の小指の用を廃したもの
第12級10号 1手の人差し指、中指、又は薬指の用を廃したもの
第10級7号 1手の親指又は親指以外の2の手指の用を廃したもの
第9級13号 1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの又は親指以外の3の手指の用を廃したもの
第8級4号 1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの又は親指以外の4の手指の用を廃したもの
第7級7号 1手の5の手指又は親指を含み4の手指の用を廃したもの
第4級6号 両手の手指の全部の用を廃したもの
判断の分かれ道
<欠損傷害>
自賠責保険の後遺障害等級認定で準拠している労災保険の認定基準上では、以下のように定められています。
「手指を失ったもの」
近位指節間関節以上を失ったもの(母指においては指節間関節)とされています。
具体的には、以下の場合が該当します。
・手指を中手骨または基節骨で切断したもの
・近位指節間関節(母指においては指節間関節)の基節骨と中節骨とを離断したもの
「指骨の一部を失ったもの」
1指骨の一部を失っていることがエックス線写真等により確認できるものをいいます。
<機能障害>
自賠責保険の後遺障害等級認定で準拠している労災保険の認定基準上では、以下のように定められています。
「手指の用を廃したもの」
手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節もしくは近位指節関節(母指においては指節間関節)に著しい運動障害を残すものとされています。
具体的には、以下の場合が該当します。
・手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
・中手指節関節又は近位指節関節(母指においては指節間関節)の可動域が健側(事故の影響による症状がない側)の可動域確度の1/2以下に制限されるもの。
・母指においては、橈側外転又は掌側外転のいずれかが健側の1/2以下に制限されているものも「著しい運動障害を残すもの」として取り扱います。
・手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失したもの
「遠位指節間関節を屈伸することができないもの」
以下の場合が該当します。
・遠指節間関節が硬直したもの
・屈伸筋の損傷の原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができない、又はこれに近い状態にあるもの
欠損障害や可動域に制限が出ていても、交通事故によって生じた器質的損傷を原因とすることが医学的に証明される必要があります。そのためには、欠損状況のわかる画像や、可動域の制限が記載された診断書等を、治療期間を通じて準備しておく必要があります。
また、後遺障害認定の審査は、認定基準に応じて形式的に行われます。後遺障害診断書の作成の際は、適切な等級が認められるよう、ポイントをおさえた診断書を作成してもらう必要があります。