高次脳機能障害

被害者:男性、29歳
受傷部位:後頭部挫傷,眼瞼擦過傷
治療期間:700日
入院日数:80日
事故状況:停車中の原告車両に、被告車両が追突。その衝撃で原告車両は前方に停止していた車両に追突。

認定金額
傷害慰謝料 250万円
後遺障害逸失利益 約 6286万円
後遺障害慰謝料 2000万円
自宅付添看護費 約 1829万円
事案の概要・裁判所の判断

本件事故は、夜間、原告車両が駐車禁止場所で停車していたところに、被告車両が追突したという事案であり、過失割合、損害額等も争点となったが、今回は、原告の傷病内容及び本件事故との因果関係に関する争点についてのみ記載する。

被告は、原告について頭部CT、脳MRI等の画像において異常が見られなかったことや、原告が事故直後に自分で歩き、保険会社との交渉も行っており、重度の意識障害がみられなかったことなどから、高次脳機能障害(脳に異常が生じたため、記憶力や注意力、社会適応能力等に低下がみられること)は発症しておらず、また、頭部外傷による高次脳機能障害の通常の経過とは異なるものであるとして、本件事故により原告に高次脳機能障害が生じたとはいえないと主張した。

しかし、裁判所は、CTやMRI画像上、明らかな異常は見られないものの、他の画像検査では脳の一部に血流の低下が見られたことや、事故直後短期間ながら意識障害があったこと、本件事故の衝撃の大きさ、本件事故以前には記憶障害等の症状がなかったこと、そして、鑑定人の医師が原告の高次脳機能障害の発症について肯定的な意見を述べていたことなどから、原告には高次脳機能傷害が発症しており、これが本件事故を原因とするものであると認めた。

コメント

通常、①人が頭部に外傷を受けた直後に重度の意識障害を生じ、かつ、②CTやMRI等の画像上、脳に明らかな異常がみられる場合には、問題なく交通事故による頭部への外傷を原因とする高次脳機能障害と認められると思われる。

問題は、①と②のいずれか、または両方がない、もしくはその程度が低いような、一見して脳に異常があるとは認められない場合である。
このような場合、事故の態様や、事故前後の被害者の変化などの様々な要素が補完されることによって、被害者の症状が高次脳機能障害であること、そしてそれが交通事故を原因とするものであると判断される場合があると考えられる。

本件では、①については軽度の意識障害のみ、②についてはCT、MRIとも明らかな異常が認められなかった(他の検査による脳の部分的血流低下は認められた)ものの、本件事故によって被害者の車の前部と後部が大破し、ボンネットからは煙が上がるなど、その衝撃が極めて大きかったことや、事故後、被害者の性格が怒りっぽく、我慢できない性格に変わったり、直前にしていたことをすぐに忘れるようになるなどの変化、鑑定人の肯定的な意見などの複数の要素が存在したことなどから、本件事故による外傷を原因とする高次脳機能障害が認定されたものと思われる。

たとえ受傷後に客観的に明らかな身体の異常がみられなくとも、後遺障害が認定される可能性を示す事例の一つといえる。