脊髄損傷の基礎知識 脊髄損傷とは
脊椎(背骨)の中を通っている神経を脊髄といいます。
脊髄は脳から出ている重要な神経で中枢神経系に分類されます。
脊髄損傷とは、この脊髄が交通事故により受けた衝撃や骨折により、損傷を受けることをいいます。
そして、脊椎は上から、頸椎、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎という部位で構成されており、損傷した箇所に応じて、頸髄損傷、胸髄損傷、腰髄損傷、仙髄損傷、尾髄損傷という呼び方をします。
脳に近い部分を損傷する程、障害が大きくなり、また、一度損傷を受けると修復や再生がされることがありません。このように、脊髄損傷は、回復が見込めず、これから先の生活をずっと障害と向き合っていくことになるため、今後のために適切な補償を受けることが非常に重要になります。
当事務所では、交通事故による脊髄損傷を負ってしまった方へのサポートに注力しており、治療中から後遺障害認定申請、その後の示談交渉までの一貫したサポートを行っております。
脊髄損傷を負ってしまった方、またはその可能性がある方は、お怪我の事や治療方針の事などぜひ一度ご相談ください。
脊髄損傷の分類
脊髄損傷は損傷の箇所や程度によって下記のとおり複数の型に分類されています。
なお、確定した診断に至るまでには、深刻な脊髄損傷の場合、一時的に脊髄ショックと呼ばれるショック状態に陥る状態となります。この間は脊髄の伝達機能が失われますので、完全麻痺が生じます。回復までの時間は損傷レベルにより異なりますが、だいたい24時間以内、長くて48時間程で回復するとされています。そして確定診断は脊髄ショックから回復した後に行うことになります。
<完全型>
横断性損傷型ともいわれ、脊髄が完全に横断されている状態をいいます。
神経伝達機能が完全に遮断されてしまうため、損傷した部位から下は完全麻痺が生じます。運動機能と感覚知覚機能が完全に失われ、回復する可能性はほとんどありません。
<不完全型>
中心性損傷型(シュナイダー型損傷)
脊髄の中心部が損傷している状態をいいます。
事故の衝突により強い衝撃が加わった時、体は前に押し出されますが、首などの筋力の弱い部分はついていくことができず、そこから上の部分が通常では曲がらない方向に強制的に曲がってしまいます (過伸展強制損傷)。
このようにして生じてしまう事が多く、ほとんどのケースは脱臼や骨折を伴いません(非骨傷性損傷)。外傷の有無にも関係がなく生じるため、むち打ちと誤診されて見過ごされてしまう可能性があります。
主な症状
四肢麻痺、感覚障害、膀胱機能障害が生じます。
損傷レベル以下の上肢の機能が下肢の機能に比べて障害が重い傾向があります。
麻痺が回復するのは下肢、膀胱機能、上肢の順番です。
手や指の機能障害が最後まで残りますが、回復はあまり見込めません。
前側部損傷型
脊髄の前側部分が損傷を受けることにより生じます。
主な症状
受傷直後は高度の四肢麻痺、損傷レベル以下の運動麻痺、温度覚や痛覚の消失、膀胱機能障害が生じます。後側部に由来する触覚、深部感覚(位置覚、振動覚)は保たれます。
回復はあまり期待できません。
半側損傷型(ブラウン・セカール)
脊髄の片側が損傷を受けることにより生じます。
主な症状
損傷と同じ側面は運動麻痺と知覚障害が生じます。反対側は表在知覚(温度覚・痛覚)が消失しますが、運動機能は残存します。
後側部損傷型
脊髄の後側部が損傷を受けることにより生じます。
前側部損傷に比べて非常に稀です。
主な症状
四肢麻痺、触覚と深部感覚(位置覚、振動覚)の障害が生じます。表在知覚(温度覚や痛覚)は残存します。
脊髄損傷の治療
先ほど説明したとおり、脊髄は修復や再生をすることがありません。
そのため脊髄損傷を生じた場合には、残された機能を使って少しでも多くの日常生活動作が実現できるように訓練していくことになります。
被害者本人や、そしてサポートする家族にとっても決して簡単な事ではありませんが、筋力が衰えると訓練はますます難しくなってしまいますので、医師の指導の元、可能な限り早期に訓練を開始する必要があります。
脊髄損傷の後遺障害認定基準
自賠責施行令で脊髄損傷は、むち打ち・捻挫と同じく「神経系統の機能障害」にあたり、後遺障害の等級認定を受けることができます。
以下の障害の部位や程度に応じて、1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級が認定されます。
等級 |
障害認定基準 |
---|---|
1級1号 |
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」 |
2級1号 |
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」 |
3級3号 |
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服する事ができないもの」 |
5級2号 |
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服する事ができないもの」 |
7級4号 |
「神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外に労務に服する事ができないもの」 |
9級10号 |
「神経系統の機能または精神に障害を残し、服する事ができる労務が相当な程度に制限されるもの」 |
12級13号 |
「局部に頑固な神経症状を残すもの」 |
適切な後遺障害の等級認定を受けるためには
これはどの傷病にもいえますが、後遺障害診断書に単に脊髄損傷と記載されているだけでは、実際の障害に応じた適切な後遺障害の等級の認定を受けることができません。早期から適切な等級の認定を受けるために資料収集を行い、認定に備える必要があります。
たとえば、非骨傷性損傷の中心性脊髄損傷の場合、事故初期の症状は捻挫と紙一重です。強い麻痺が残るような重度な場合を除いて、脊髄損傷が初診で捻挫と診断されてしまうケースは珍しくありません。しかしながら、捻挫と脊髄損傷では最終的に受ける給付金に20倍ちかい差が生じてしまいます。
脊髄損傷であるにもかかわらず、捻挫と診断され、その後本人も捻挫と侮ってセルフチェックを怠っていたため、必要な診断や検査が行われなかった場合、画像や本人に生じていた症状等が資料として残らずに資料収集が難しくなってしまいます。
認定申請の際には、次の内容を証明する診断書や検査結果が大切です。
・事故の状況、治療経過からわかる症状の連続性・一貫性。
・画像所見により損傷された脊髄レベルが特定できる。
・神経学的所見(知覚機能、運動機能、反射機能等)に異常がある。
・異常所見と損傷レベルとの整合性。
そして、これらを証明するためには、治療中は以下の点に気を付けておく必要があります。
①早期画像診断の実施
画像所見があるかが認定の難易度を大きく左右します。
初診で脊髄損傷と診断された方はもちろんですが、捻挫と診断されたけれども事故後から手や指の麻痺、痺れや痙攣があり細かい作業が難しくなったという方も、なるべく早期に脊髄損傷である可能性を疑い、高精度MRIでの撮影を試みておくべきです。
また、X線撮影も素因を示唆できる重要な資料となりますので実施すべきです。
②早期の神経学的検査の実施
神経学的所見に異常がみられる事が必要となるため、以下のようなテストを行います。
・反射テスト
ゴムハンマーで各神経が通っている箇所を直接叩いてみて、反射をみる検査です。
脊髄に異常がある場合、過剰な反射がみられます。
・徒手筋力テスト
筋力の低下を確認する検査です。筋力が低下している筋肉を確認することにより、各神経根の障害部位が特定できます。
・筋委縮テスト
筋肉に委縮が生じているかを確認する検査です。筋力が低下している場合、筋肉の使用頻度が下がることから筋肉が細くなります。
・電気生理学的検査
針電極を使用する検査です。筋電図検査、神経伝導速度検査、誘発電位などをさします。
被験者の意図が入りにくいため、客観的な検査方法として有用です。
③治療経過
事故直後から症状固定までの症状の一貫性・連続性が必要となります。
医院に保管されている診断書は治療経過をみる大切な資料です。そこに症状の記載がないと症状が無いものとみなされてしまいます。
定期的に診察し、自覚症状、初診からの病状推移、現在の治療内容と今後の治療方針、こういった内容を細かく記録して残しておく必要があります。症状を的確に記録しておくためには、身体のどの部位が、どういう痛みなのか、どういう痺れなのかを具体的に申告する必要があります。
④後遺障害診断書の作成
治療が終了して症状固定となった後、いよいよ後遺障害認定申請です。
ほとんどの医師は診察や治療の専門家です。後遺障害認定の専門家である可能性はあまり高くありません。適切な等級がとれるようポイントを押さえた診断書を作成する必要があります。画像所見、神経学的所見を正確かつ具体的に記載してもらいます。
むち打ちと誤診されるような脊髄損傷では、明確な画像所見が得られる可能性は低くなってしまいますが、画像所見がない場合でも、上記のような神経学的所見があり、脊髄損傷の発生や存在を十分に説明することができれば、後遺障害が認められる可能性はあります。
当事務所では、交通事故による脊髄損傷を負ってしまった方へのサポートに注力しており、治療中から後遺障害認定申請、その後の示談交渉までの一貫したサポートを行っております。
脊髄損傷を負ってしまった方、またはその可能性がある方は、お怪我の事や治療方針の事などぜひ一度ご相談ください。