腰の後遺障害とは
腰は、両下肢と胴体をつなぐ部分です。そして腰部にある腰椎は脊椎の一部で、脳から伸びた神経である脊髄が通っていますから、とても重要な部分です。
また、股関節は二つの大腿骨頭を寛骨臼で包み、その周りを多くの強い筋肉で覆っています。人間が歩いたり走ったりするためにとても重要な部分であり、機能障害を引き起こすと大変な大きな影響を被ることになります。
腰の受傷としては、腰椎捻挫や椎間板ヘルニア、脊髄損傷、また股関節脱臼や骨折などが考えられます。
腰椎捻挫
捻挫というと軽い怪我のように思いますが、関節に許容範囲以上の動きが加えられた結果、骨と骨をつなぐ部分が損傷する、あるいは炎症を起こす等の異常な状態を意味します。そして、それらの結果、神経が圧迫を受けると、痛みや痺れが発生し、治療をしても残存する場合には、後遺障害の認定を行うことになります。
後遺障害等級認定基準
腰椎捻挫のような神経症状での後遺障害は、以下の二つがあります。
・12級13号 「局部に頑固な神経症状を残すもの」
自覚症状が他覚的所見(検査結果や画像所見によって外部から認識できること)により、事故による症状として証明可能な場合。
・14級9号 「局部に神経症状を残すもの」
事故の状況、診療経過からわかる症状に連続性・一貫性があり、事故による症状として説明可能であり、医学的に推定できる場合。
判断の分かれ道
12級13号と14級9号の違いは、説明可能か証明可能かです。
14級9号が認められるのは、自覚症状の発生が、事故の態様などから説明できることまでで良いのに対して、12級13号の認定には自覚症状が事故を原因とするものであることが医学的に証明できなければなりません。レントゲンやMRI検査の結果や、神経学的検査等の結果が重要なのは、むち打ちの場合と同じです。
そして、14級9号が認められない場合には「非該当」とされてしまう可能性も検討する必要があります。腰椎捻挫はむち打ちなどと同じようにレントゲンやMRI検査などの画像所見に原因が現れないことが多い上に、腰痛に関しては「既往症」と判断されてしまうことも多いためです。
そのため、後遺障害申請の際には、要点を押さえた後遺症診断書の作成を依頼して、不当な判断をされないようにすることが大切です。
椎間板ヘルニア
「ヘルニア」という言葉もよく聞く病状です。ヘルニアとは「本来あるべき場所から飛び出た状態」を意味します。つまり、椎間板ヘルニアというのは、「椎間板が、本来あるべき場所から飛び出ている」状態ということです。
椎間板というのは、脊柱を構成する椎骨という骨と骨の間にある衝撃を吸収するためのもので、これが何らかの拍子に飛び出て、それが原因となって脊髄(神経)を圧迫すると四肢に痺れや痛みが生じます。この腰椎の椎間板ヘルニアの場合には、下肢に疼痛や痺れが生じることになります。
後遺障害等級認定基準
ヘルニアも神経症状を生じるため、後遺障害等級としては以下の二つになります。
・12級13号 「局部に頑固な神経症状を残すもの」
自覚症状が他覚的所見(検査結果や画像所見によって外部から認識できること)により、事故による症状として証明可能な場合。
・14級9号 「局部に神経症状を残すもの」
事故の状況、診療経過からわかる症状に連続性・一貫性があり、事故による症状として説明可能であり、医学的に推定できる場合。
判断の分かれ道
椎間板ヘルニアは、椎骨と椎骨の間から椎間板が突出してしまうことなので、通常MRI画像で認識できます。つまり、12級13号に認定されることはMRI画像をみれば容易なのではないか……と考えてしまうのは早計です。
なぜかといいますと、MRI画像上、椎間板ヘルニアが確認できた場合でも、それが事故により生じたのではなく、既往症と判断されてしまうことがあるためです。中には「椎間板ヘルニアは、交通事故では発生しない」と主張する人さえいます。
したがって、画像所見がしっかりとあるとしても、安心できません。この場合にも要点を押さえた後遺障害診断書を作成して、後遺障害認定の申請をする必要があるのです。
腰髄損傷
腰椎は脊椎の一部であり、その中には脊髄(腰髄)が通っています。この神経を損傷してしまうと、腰から下について重篤な神経症状が発生します。腰椎の神経損傷により、下肢の運動、感覚機能が消失してしまうのです。
後遺障害等級認定基準
腰髄損傷は、頸髄損傷と同様に1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級が認定され得ます。
・1級1号 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」
・2級1号 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」
・3級3号 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」
・5級2号 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に簡易な労務以外の労務に服することができないもの」
・7級4号 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、簡易な労務以外の労務に服することができないもの」
・9級10号 「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
・12級13号 「局部に頑固な神経症状を残すもの」
これらの分かれ道
脊髄損傷は、身体的所見及びMRI、CT画像等によって他覚的に裏付けられる麻痺の範囲と程度に則って後遺障害等級が幅広く定められています。
たとえば、片方の足が麻痺している場合には9級から5級が認められる可能性がありますし、四肢麻痺が認められれば3級以上である可能性が高いです。
等級が幅広く設定されているということは、何級が認定されるかで、賠償額が大幅に変わってくるということです。自身の後遺障害に見合った適切な認定を受けるために、資料収集が大切になってきます。
脊髄損傷について詳しくはコチラをご覧ください
股関節脱臼・骨折
股関節は、大腿骨頭を寛骨臼で深く覆うように収納しているため脱臼をしにくい構造になっていますが、交通事故の大きな衝撃を耐えた際には脱臼や骨折などを生じることがあります。股関節は人間の体を支える上で重要な部分なので、脱臼や骨折がうまく治癒しない場合には機能障害が生じることがあります.。
後遺障害等級認定基準
・1級9号 「両下肢の用を全廃したもの」
・5級5号 「1下肢の用を全廃したもの」
・6級7号 「1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」
・8級7号 「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」
・10級11号 「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
・12級7号 「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」
判断の分かれ道
機能障害の等級は、どこの関節がどの程度制限されているかによって判断されます。
股関節は通常、屈曲・伸展、内転・外転と多様に大きく可動します。そこで、これらの動きがどの程度制限されているかということが後遺障害の等級認定に当たっては問題となります。制限の有無については、健側(事故の影響による症状がない側)の可動域と比較することによって判断していくことになります。
比較の結果と認定は以下のようになります。
3/4以下に制限 機能に障害を残している
1/2以下に制限 機能に著しい障害を残している
全く可動しない又は10%以下しか動かない 用を廃している
このように、医師による検査の結果で等級がはっきり分かれるため、きちんと診断をしてもらう必要があります。
また、可動域に制限が出ていても、交通事故によって生じた器質的損傷を原因とすることが医学的に証明されなければなりません。そのためには、レントゲンやMRI画像を準備し、既往症と診断されないように後遺障害診断書の作成にも注意を払うことが大切です。